名古屋キックツアー

*はじめに

お正月の横浜逆キックツアー打ち上げの席上、にちさんと吉田さんとの間で、「名古屋まで自転車で自走しよう!」という、壮大な計画が持ち上がった。名付けて「名古屋キック」なんだそうな。その話を聞いた瞬間、 「あっ、おもしろうそう!私も行きた〜い」だった。しかし、冷静に考えたら今の私の実力では到底無理なお話である。そのころの私は100km以上走ったのは一回きり。でも、「キック」と名付けられたからには ”私が”参加しないことには納得がいかない。そこで自走は諦めて名古屋まで輪行して迎撃することに一端は決めたのだ。

しかーし、今回は 「誰が誰にキック」したことになっているのだ?!

その後、にちさんと吉田さん、(あ)さんとの間で徐々にコースルートなどが想定されていくことになる。スタート地点はどこにするのか?日本橋出発論と小田原始発・箱根越え論とに分かれ、約1ヶ月もの間、激論が交わされた。

それを横目でみつつ、私の心の中では 「やっぱり走りたい!箱根越えしてみたい!」との願望がむっくりと起きあがってきて、どうにも押さえられなくなった。(あ)さんに大反対されようとも、自分の気持ちに正直にそれを にちさん、吉田さんにぶつけてみた。きっとびっくりしたことだろうが、受け入れて下さったことに大感謝である。

この先は自転車の性能を上げ、自分の実力を高めていくことに心血を注ぐことになる。

まず自転車はリア34t9速化、フロント56t+42t化に大改造する。(ミキさんから42tのチェーンリングを頂いた。感謝です!)

走りの方は、荒川オフ(対逆風含む)X2、多摩川ロングライド、家出?(単独走行)、箱根越え試走等に積極的に参加した。それに、身体作りと称してがつがつ食べた。

いよいよ当日まであと1週間となった時に突如、吉田さんから 「仕事でいけなくなりました。残念です。」とのメールが舞い込む。 「が〜ん!」 @nakの二人はお酒の席でしか吉田さんとはご一緒したことがなかったので、このツーリングをとっても楽しみにしていたのだ。この時点で重大事実が判明。

”名古屋キック” ”(た)が吉田さんの上司にキック”

 

名古屋自走組

にちさん…今回のツアールートの想定、宿、新幹線の予約等全てを引き受けてくれた。名古屋の合流ポイントにガールフレンドを待たせて奮起する策士でもある。

こぐさん…分隊として完全自走の野望を持つも、今回は本体と合流して走ることに。実は一番楽しんでいたのはこのお方かも?!

まきさん…リカンベントで箱根制覇!目指せ名古屋!を目的にしたお方。レーパンが眩しい。スパイダーマンみたい?!距離の半分以上の先頭を走り、ペース作りをかってでた。

たかさん…出発前からずーっとテンションが高かった。体全体で楽しさを表す姿に好感がもてる。主に(私の!)メカニックとしてサポート役をして下さった。

(あ)さん…この人もテンションが高過ぎて先行きが心配された。が、多くの頼れる仲間に囲まれてご機嫌な姿に安心する。良かったね。

 

第一日目

*小田原駅9

ハードなスケジュールを控えて少々緊張気味な表情で6人が集合。この後いきなり箱根峠を目指すのだ。

@nakの二人は2週間前にも練習(!)で走っているのでほんのちょっと余裕あり。先の様子が分かっているのって重要だと思う。前回よりも軽いギアを用意してきているのも心を軽くしているようだ。それにしたって、先は長いのだ。そろりそろりと登坂し始める。どうして好き好んで一ヶ月2回も箱根を登ったりするんだろう?と苦笑しながら。

強者の麦草峠’s(にちさん、たかさん、こぐさん)は恐れることなくがんがん登っていく。その姿に私がおののく。最大の難関である「7曲がり」も楽々制覇してしまった。こぐさんにいたっては小休止なしとのこと。凄すぎるぅ。「(た)さんが後ろから煽ってくると思ったら怖くってさ。」ですって。もう、キック!

*ロードって凄い!

私がヘロヘロと登っていると、後ろからもの凄いスピードでロードが追い越していく。息が乱れていない!しかも、にこやかだ。おまけに、「これから天気が悪くなるから気をつけるんだよー」と声を掛けていくのだ。なんという余裕なのだ! この後、折り返してくるこの人と再び顔を合わせることになるのだが(もちろんまだこっちは登っている最中)、この人って何者ですか?(笑)

*芦ノ湖が荒れ狂ってる!

お昼ごはんは下見の時と同じお蕎麦屋さんでとる。

まきさん、こぐさんと蕎麦好きが顔を合わせる。

この日はこぐさんの食べ方から目を離せなかった。まず、ざる蕎麦に大量の七味唐辛子を振りかけるのだ。それをひとすくいそのまま口にいれて味わい、その後にとろろの漬け汁をのどに流し込むという、なんとも大胆な食べ方! にちさんも真似を始めたが当然のごとく、唐辛子にむせていた。あはは〜。

この後は少し登ったら芦ノ湖に到着するはずだった… そう、七曲がりを過ぎれば箱根を制覇したも当然と思っていたのだ。実際はまだまだ登りが残っていた。これが辛かった〜。やはり箱根を侮るなかれ!

空を見上げると雲の流れがジェット機のように早い。風も冷たくなってきたようだ。無事に三島まで自転車で下れるのだろうか?

そうこうするうちに芦ノ湖へと到着するが… 目を疑う!! なんと白波が立ち、岸へ大波が打ち寄せているではないか。ざっぱ〜ん! あらら〜

ここでお茶休憩を期待するも先を急ぐことで話がまとまる。そう、天気は荒れてがいるが雨はまだ降っていなかったのだ。とにかく、箱根峠(標高864m)の頂上を目指すのだ!

*鳩もびっくり?!

どんよりグログロびゅうびゅうな天候の中無事に 道の駅、箱根峠へと辿り着き、記念撮影も終えた。

道の駅でこぐさんが黒くて丸い物を手にしていた。一体なんだろう?それに穴を開けて中身をすすりだしたこぐさん。なんと温泉卵だったのだ。「お昼はお蕎麦だけだったからたんばく質補給しなきゃさ!」とのことです。あはは。

さて、お楽しみの下りです。しかーし!もの凄い横風だ。必死にペダルを漕いで操縦しないと車道へと自転車ごと身体が投げ出されそう。もちろん車が三島へと抜ける道はこれしかないのでトラックなどがびゅんびゅん後ろからやってくる。怖いよ〜。

2週間前は延々と続く下りと50km/h越のスピードを楽しみつつもその状況におののいたが、今回はまた違った恐怖である。自転車屋さんにブレーキの調整をあれ程うるさく確認したのに、重要だったのはブレーキではなく集中力と漕ぐ力だった。

もう本当に凄い風で、先頭を下っていたまきさんには段ボールが激突していた。

まったくスピードの出ない、ゆっくりの下りだったせいか、イヤに長い道のりに感じられた。三島の街に入る頃には結構疲れていたように思う。

*とうとう雨が…

三島の街に入ると突然の雨がやってきた。雨足は強まる一方だ。荷物にカバーをかぶせ、一路、沼津の宿を目指す。防水スプレーを衣服にかけてきたものの、すぐにズボンはビシャビシャになってしまった。覚悟はしていたから仕様がないものの、靴が徐々に塗れてきたのは恐怖に近かった。それまで散々、にちさんからそのブルーな気持ちを聞かされていたからだ。その にちさんはシューズカバーをしっかりと用意してきている。まるでミッキーマウスの様な姿はかわいいのだ。

暗くなる前になんとか宿にたどり着いた。フロントで自転車6台を駐輪させる場所を聞くことを忘れちゃいけない。親切にも駐車場の奥に置かせてもらえることになった。

*トイレットペーパー

部屋に荷物を置いて一息つくとすぐに、濡れた自転車のメンテナンスを行った。雨中を走ったことのない@nakはその後のメンテナンスも初体験である。見よう見まねでやってみる。ついでにチェーンオイルも借りてしまう。

まきさんはメンテナンス用に真っ白なタオルを持参してきていた。今回の旅に対する意気込みを見るようで、ちょっと眩しかった。それに引き替え我々は、部屋から失敬してきたトイレットペーパーで拭き拭きする。かなり惨めな感じ〜。

車体、チェーン等に紙屑が張り付くは、地面に細かいゴミが散らばるしで大変だった。よし、今度は専用のタオルを持ってこよう!@nakはまだまだ学習するのだ。えっへん。

メンテナンスの後、峠登坂時に調子が悪くなった私の自転車の様子をまきさん、たかさんが見てくれた。やはり頼れる仲間がいてこそ、大仕事に取り組むことができるのだと思った。ありがたや。

*がつがつ&ぷらぷら

さあ、お楽しみのお夕食!バスに乗って沼津港の丸天へ食べに行く。このお店はメニューが豊富で迷ってしまう。空腹ですぐにでも食べたいくせに、注文するのに時間がかかるのは何故?後々、後悔しない為に真剣に検討を重ねているのだ。壁に張られたメニューに目が光る。キラーン。

天丼、握り寿司、うにまぐろ丼、まぐろのテールシチュー風煮込み(!)、生桜エビ等、それぞれが思い思いに注文した。

チャレンジャーなにちさんのオーダーしたマグロのテールは大皿にド〜ンと盛られてきた。ボリュームが凄い。にちさんが食べ終わったら今度はこぐさんの出番だ。骨の回りの血合いの部分をおいしそうに片づけていた。きっと一番おいしい所なのでしょうね。

おなかいっぱいになった面々は宿まで歩くことにした。小雨がずっと降り続いてはいるが、タクシーを拾うのも面倒になったのだ(バスは既にない)。沼津駅近くにあった鉄塔を目印にしてプラーンプラーンと歩くことの気持ち良さ。きっと酔いも手伝っていたのだろう。そういえば、今日は箱根も越えてきたんだっけね。なんとも盛りだくさんな一日なのでしょう。楽しいなぁ。

*へっ、たんたんめん?

宿の近くまで来たときに唯一コーヒーが飲めそうなミスタードーナツを発見する。こぐさん以外の人はドーナツとコーヒーだった。その2点に加え、盆にたんたんめんを載せてきたこぐさんにびっくり。また楽しい笑いを提供してくれた。

*ドラマの合間にドライヤー

その日はドラマ「恋のチカラ」の最終回だった。旅の空にあっても見逃したくはなかった。身体を乗り出して観賞しつつ、コマーシャルに入ると濡れた靴をフロントから拝借してきたドライヤーで必死に乾かした。部屋中には、もの凄い臭いが立ちこめ、(あ)さんからは冷たい視線が…

 

2日目

*富士山が近い!

朝起きて窓の外を見ると、晴天とはいえないけれど雨も上がって路面も乾いているようだった。

大胆にもホテルの正面玄関で荷造り及び朝食をしっかりと済ませて一行は出発した。

しばらくして私が勤める会社の沼津支社を発見するも、見て見ない振りをするのだった。せっかくのバカンスなのに嫌なものを見てしまった〜

こぐさんを先頭にして海沿いの千本松原を走る。私はたいてい2番目を走行させてもらっていたのだが、こぐさんが先頭の時はペースが早くてついて行くのが大変だった。特にスタートダッシュが並ではない早さなのだ。信号が変ったとたんにフルスピード! その実力をしっかりと見せつけられてしまった。しかしそのお陰もあって、良いペースで走れたようにも思う。

そのうち誰かが無線で、富士山が真横に見えることを知らせてくれた。しばし自転車を休めて見入るのだった。富士山のこんな近くまで自転車で来ることができたのはやはり感動に値すると思う。その思いはきっと皆にもあったはずだ。

田子の浦のあたりで道に迷ったりもした。そんな時には無線が大活躍だ。たかさんが調査しに先を走り、状況説明を入れてくれた。そんな体験も初めてなので身震いするほど楽しく思われた。実際はかなり深刻な状況だったりするのだが私はしっかり楽しんでしまった。

*職務質問?

富士川を渡った土手で一時休止を取った。ちょうどそこには、自動車のスピードを取り締まる警察官の集団が待機をしていた。小径車軍団が珍しかったのか、向こうから近づいてきた。軽い職務質問(?)を受けつつ、こちらもお返しとばかりにこの先の道を訪ねてみた。1号線は車の往来が激しいので、警察側の立場としては、自転車は走行して欲しくないとのことだった。旧道を探して走れと言う。「寺尾の交差点」まできたら信号を渡り、そこからは自転車道があるはずだと。

あまり深入りしたくない思い(特別悪い事をした訳ではないけれど長居は無用)も手伝って、早々に出発することにした。

*感動した!蒲原駅

警官の言う旧道とやらがよく分からずにかなりタイムロスを強いられた。ここでも無線が大活躍だったけれど。

ようやっと線路沿いの道を見つけ、ややのどかな感じのある商店街を走っていく。どこかしら東海道の面影が感じられる街並みが思い出深い。

蒲原駅(JR東海の看板にしみじみ〜)で帰りの新幹線の乗車券と吉田さんの分の指定券の払い戻しを行った。その時の駅員さんの態度の良さに非常に好感がもてた。面倒くさがらずに全員分の処理を請け負ってくれた。一昔前の国鉄の高圧な態度はもうないのねぇ。気を良くした私は改札を通してもらってトイレまで借りてしまった。ホームののんびりした雰囲気がまた良かった。都会の殺伐とした通勤風景に慣れ親しんでしまった身が悲しい。

そろそろ出発かと思ったその瞬間、こぐさんがアイスクリームをなめなめ現れた。

「いやー、饅頭アイス入荷しましたって書いてあってさぁ。食べない訳いかないよね。」

あははは。

*桜エビの街

由比に入ると桜エビと書かれたピンクの旗がたくさん見られるようになった。回りの風景も観光地らしくなってきたようだ。本陣跡、資料館風な建物も見られる。走りの速度も自然とゆっくりになるようだった。そんな時私の頭の中には、こういう場所には昔ながらのお菓子屋さんがあるはずとの思いでいっぱいだった。キョロキョロ。「あーっ、ありました!」

桜エビサブレを看板にしたお店だった。実際は桜エビサブレにそれ程の興味があった訳ではないけれど、由比ならではの思い出が欲しかったのだ。どちらかというと頭の中は「???」でいっぱい。

お店に入ってみると出来立てらしいお饅頭と最中もたくさん並んでいた。取りあえずウケ狙いのサブレとお饅頭、最中も包んでもらう。

お店のおば様はヘルメットかぶった怪しいネーちゃんに興味を持ったらしい。

「どこから来たの?どこまで行くの?学生さん?」

こういった質問にはどこまで詳しく答えたらよいのか非常に困ってしまう。

「今日は沼津から浜松まで走ります。学生じゃないですぅ。」

嘘は言えないよね〜 (笑) >学生

「浜松まで」と言ったとき、おば様は「ひぇー」と言っておられた。私は心なしか胸を張ったような気がする。この時までは。

無謀な挑戦だったと数時間後には思い知らされるのだ… がっくし。

*寺尾の交差点

おやつもしっかりゲットした一行はさらに先へ。由比の辺りから海がちらちら見え隠れしていた。警官の言っていた「寺尾の交差点」も近いに違いない。

するといきなり視界に海、東名高速道路、国道1号線の3者が飛び込んできた。どうやらここがその交差点らしい。ふじかさんも言っておられたが、やはりここは車にとっては難所であるようだ。ニュースでも度々報じられる交通事故のメッカである。プロのトラックドライバーもスピードのコントロールを失いやすいという、なだらかな魔のスロープ。なるほど、清水から東京方面に向かって道が下っているのがよく分かる。嫌に見通しが良い。

「ふーむ。ここが魔の地点であったか。」

妙な興奮を覚える私。こんなとこまで来るたぁ、大したもんである。

それにしてもどうやって交差点を渡るのだ?その先には歩行者・自転車の為の道はあるのか?(あ)さんの目が厳しく私を攻めている。「警官にちゃんと聞いたのかー?」って。おぉ怖い。

果たしてその道は、高速道路と国道とに挟まれた、かなり殺伐とした空間であった。すぐ両脇はトラック、車がもの凄いスピードで走っているのだ。私は再びもの凄い興奮を感じた。こんな体験は二度とできないかもしれないのだ。

もう一度言うが、左は東名、右は一号線、左向こうは海。なんたるロケーション! その真ん中を小径車6台が突き進むのだ。

*あ〜、お腹すいたぁ!

興奮の後にやってくるのはやはり空腹感であった。目指せ、清水港!

しかし、嫌な感じで雨が降り出してきた。海沿いの生温かな空気の中で雨具を着込むのは気持ちが悪かったが仕方がない。風も強まってきたか。

こぐさんを先頭にお昼ごはん場所を探して走った。今回の旅を「美味しい物を食べて楽しむ」モードに頭を切り替えたこぐさんは、とても頼もしいのだ。

*「なすび」三昧!

空腹のあまり頭と身体がヘロヘロになった頃、昼食処「なすび」に到着した。嬉しさのあまり、「やった〜」との歓声が6名から上がった。

見ればとても立派な店構え。非常に高そうである。しかし、別のお店を探して再び走り回る余裕のない一団は、

「まぁ、いいやね。せっかく来たんだしね。美味しいもの食べようや!あははは〜」

と、どこまでもハイテンションである。きっと誰しもが3000円程の出費を覚悟したはずだ。

ところがリーズナブルな品ぞろえだったのだ。しかも、到着したお料理はどれもこれもボリュームがいっぱい! 私の頼んだ桜エビ・シラス・まぐろ丼などは見るからに美味しそう!これはなんと土佐酢でいただくのだ。きれいさっぱり美味しく頂いた。桜エビとシラスの大量の殺生に心痛めたのも最初の3口までだったか。

ここでも拘りのこぐさんがいた!なんとしても「甘鯛の一夜干し」を食べたいという。

にちさん曰く、福山マサハル似の店員さんは、30分くらい時間が掛かるので「ふぐの一夜干し」にしてはどうかと勧めている。

しかし、諦めきれないこぐさんは甘鯛にこだわっていた。私としては、甘鯛よりもふぐのほうが美味しいのでは?と思ったりしたものだか、こぐさんの思いを聞いて納得する。鉄道唱歌の一節に「清水の甘鯛の一夜干し」といのが出てくるらしいのだ。

ふっくらと焼き上げられたその身はしみじみとした滋味が感じられた。日本の守りたい大切な味。

お皿に残された骨は本当にきれいだった。お魚をレントゲンにかけたようだった。時間があればきっとこの骨もこぐさんのお腹に収まったに違いない。あははは。

*んー、ツライですぅ。

かなりゆっくりとお昼ごはんを食べて外に出てみれば、天気はいよいよ悪くなり、粒の大きな雨が落ちてくるようになった。

食べ過ぎのお腹は重く、身体のあちらこちらも痛くなりはじめていた。気持ちはかなりブルーで、清水駅から輪行したい気持ちが私の中で強かった。しかし、先頭を走るまきさんの背中は元気いっぱい力強く、雨風の中をひたすら走り進んで行くのだった。連日のツーリングの過酷さを感じた時だった。

*わ〜い、いちごアイスだぁ!

心の中で疲労感に泣き且つ、お腹ぱんぱんでも、いちご街道(久能街道)に入ると元気になってしまうのだった。ここで旬のいちごを食べることを本当に楽しみにしていたのだ。そう、前の晩から 「いっちご!いっちご!」 と騒いでいたのは私だ。まきさんもかな?!

この通りは私が先頭を任された。好きなお店の前で止まって良いという。そんなの困るわん と思いつつ目に飛び込んできたのは 「いちごジェラート」の文字。もう、神奈川支部のためにあるお店だ。ここに決まり〜。 今日はサービスディでダブルサイズが330円のところ300円でよいという。ますます良い感じ。いちご畑の下で食べるいちごジェラートは格別においしいようだ。ん〜、幸せっ。

そして、こぐさんと私の目は次の獲物を狙っていた。冷蔵庫に入れられたいちごどら焼きがおいしそう。もちろん二人の意見はすぐにまとまり、分け合って食べた。生のいちごがまるごとゴロッと入っていた。

「誘ったら絶対に断らないもんなぁ。」

と、こぐさん。ふんっ失礼ねん (^^)

*太平洋自転車道

ふぅ。ますますお腹がいっぱいだ。お天気は相変わら荒れ模様。しかし、いちご畑と海に挟まれた道を走るのは良い気分なのだ。もっと海に近い道はないものかと求める先に、「太平洋自転車道」の看板が目に入った。数々の先人のレポートを読んで参考にしていた にちさんの思いはひとしおであったと思う。しかし、どのレポも良いことはひとつも書いていなかったらしいのだ。ここでしばし相談する。 海に最も近いこの道を走るのか? 引き続き車道を走るのか?

その時誰かさんが、

「やーい、俺だけ抜け駆けだぁ。神奈川支部で唯一走った男だぜぃ。」

なんてこと言っている。

はい。この一言によって、全員で走ることに決めました。この大人げない男はスパイダーまきだ。

走ってみたら道の状態は良かった。ロケーションは最高! 海が近い。でも、雨混じりの向かい風は強烈過ぎる。私も前に着いていくのに必死だったが、ある時振り向いたらば、後ろが大きく遅れていた。辛い時は皆一緒なのだ。

それにしても「太平洋自転車道」というこのネーミングは最高だ。日本の半分を征してしまった気分!←おおげさ〜

*安倍川餅へと続く道

気が付くと自転車道は安倍川沿いの道へとつながっていた。

ここからはこぐさんの出番である。憧れの安倍川餅を食べに行くのだ。朝から何度もお店に確認の電話をいれ、6人分のお餅を確保してもらっていた。こぐさんに感謝感謝。

であるが、お餅を見据えたこぐさんの走りの早いこと早いこと。とっても着いてはいけない。ひぃぃ。

やっとの思いで辿り着いたお店には桜の花が咲き乱れ、店構えからして良い雰囲気である。店内に足を踏み入れたら、あらびっくり。たこの入道のような大男がお店を切り盛りしている。この人がひと口サイズにお餅をちぎってくれるのだ。むふふ、変な感じ。

いわゆる「あべかわ」は、期待どおりのきな粉とあんこ。「からみ」はなんと、お餅をわさびで食べるのだ。ほの温かく、やわらかいお餅をわさび醤油に浸す。ビリッとくる感じは初めて味わうものだ。

*鰻まで輪行だ!

時間は既に夕暮れに近い。しかし、浜松まではまだまだ遠い。これだけ食べ放題していれば時間は足りなくなって当然かもしれない。

私のお尻は限界に近いくらい痛くなっていた。おまけに、体調もかなり悪かった。くしゃみが止まらない。いつもの風邪の症状がばっちり出てきてしまっている。

輪行で浜松へ向かうことに異を唱える者は誰もいなかった。晩ご飯に鰻を食べる予定もあるのだから急がなければならない。

最寄りの安倍川駅から東海道本線に乗り込む。浜松の手前、豊田町駅で降りるつもりで切符を買っていた。天竜川を自分達で渡って、浜松の街へ入ろうと思っていたのだ。しかし、車窓の景色は徐々に暮れていくのだった。分散して乗車した電車内に、無線を駆使して作戦会議が繰り広げられた。かなり怪しい人々であったと思われる。

結局の処、電車で浜松へ入ることにした。時間にして1時間。料金にして約1300円。乗りごたえ充分な輪行だ。この日の行程の半分を東海道線に頼ってしまったことになる。残念だけれども仕様がない。これが今の実力なのだろう。

*ミソノイサイクル

ホテルに無事到着して荷物を置き、まきさんを除く5人はこちらで有名なミソノイサイクルを訪れた。@nakの二人は激安だったウェアーを手に入れて上機嫌。

まきさんは浜松にお住まいのプーさんに会いにそのまま Saturdayで出掛けてしまった。その後合流して6人で鰻三昧をする。特上を食べようと意気込んでいた(た)だったけれど、(あ)さんの冷たい視線に断腸の思いで諦め、仕方なく皆に合わせて普通にした。ぶぅ。鰻の恨みは深いぞぉ。

お通し(?)として鰻の骨の空揚げのようなものが用意されていた。白焼きと共に満面の笑みで食べていたのはやはり、こぐさんなのだ。ポリポリと浜松の夜は更けていった。

 

3日目

3ACTION

起きてみると前夜の風邪の症状、お尻の痛みは消えていた。熟睡できた為なのか頭もすっきりとしている。ただ、なんとはなしに身体がだるいようだ。

そうだ!今こそ まめさんからもらった3ACTIONを試す時なのだ。お世話になることもあろうと思い、バッグに忍ばせていた。

取りあえず出発前に部屋で1/3量をごくり。あっま〜い。 まめさんの如く足はリセットされるのか?

この日は愛知県刈谷市の国道1号線沿いのローソンで、きさ家のお二人、かぶりしぇさんと合流する予定になっていた。待ち合わせの時間は午後430分。距離は約90km。がんばれば完全自走できる距離だ。

前の晩の作戦会議では、休憩時間を極力短くすること。しかし、給水の為の小休憩はこまめに(30分に1回、5分程度)とる。昼食はコンビニで済ます。これらのことが決められた。

*おぉ〜足が回る回る!

出発してすぐに3ACTIONの効果を感じ取ることができた。身体中に気だるさをはっきりと感じているはずなのに、足だけは益々快調に回っている。このまま飛ばしてどこまでも走っていけそうだ。でも、この調子の良さは3ACTIONのお陰であることは明白だったのでこの効果の切れることが今度は怖かった。神社での最初の休憩で早くも2回目の投与(?)をしてしまった。

一行は海沿いの浜名バイパスを避けて東海道線に沿って進路をとった。

弁天島のあたりには松が植えられていて旧街道の面影を残しているようだった。写真を取りたいという(あ)さんの為に自転車を止めて集合写真モードに寄り添う残りのメンバー達。しかし、(あ)さんがカメラを向けたのはそれとは反対方向だった。すっかりその気になっていた5人は呆気にとられて大爆笑。うん、今日も良い雰囲気で旅が続けられそう。

浜名湖はすぐに見えてきた。左手向こうには浜名バイパス。赤い小さな鳥居も見える。湖の水はとても透明度が高くてきれいなようだ。でも、またしても風が強いのだ。向かい風に必死に抗がいながら橋を渡って関所跡で有名な新居町に入る。

新居駅で再び休憩をとったが、ここで最後の3ACTIONを口にした。この後「潮見坂」なる未知の峠?を控えていたからだ。疲れの為なのか3ACTIONを持つ手が震え、喉からウィンドブレーカーに至るまで一筋こぼしてしまった。かなり粘りけがあるのでベトベトし、ブルーな気分になってしまったが仕様がない。そのおかげで空腹感は少しも感じずに済んでいるのだから。

*ここに来て峠ですかぁ… ふぅ〜

予想どおり「潮見坂」は峠だった。

新居の駅を過ぎ、国道を避けて走った道が少しずつ勾配を持っていたので嫌な予感はあった。力を振り絞って登るけれど、言葉は何も出てこない。ただただ自分の荒い息づかいがこの世界を支配するのみ。途中、まきさんが無線で知らせる。

「左に海が見えるよ。だから潮見坂っていうんだね。」

あっ本当だ。苦しんでいる最中だから少し救われた気分になる。それにしても冷静だねぇ。

*魔のコンビニ休憩

登り詰めたところに大きな駐車場を備えたコンビニがあった。息を整えるべく休憩を申請し許可されるも、まき隊長は短時間としたかったみたい…

トイレの順番待ちをしているとそのすぐ脇にはアイスクリームのぎっしり詰まった冷蔵庫があり、(た)、こぐさん、たかさんの目はしっかり物色してしまった。うっしっし。

「アイスの実」を手にして帰ってきた私達を見るまきさんの目が心なしか冷たかったような気がするが、気のせいか?

もう一人、心ここにあらずのお方がいた。にちさんだ。手にコーンスープの缶を持ったままホケッとコンビニ内に立ちすくんでいる。目はうつろにアンマンの入ったショーケースに注がれている。おなか空いちゃたのかしら?それならばと、由比で買った大事なお饅頭を分けてあげるつもりでにちさんに差し出した。大きかったから半分とって返してくれると思ったら素直に全部とられてしまった。あれ?と思ったが出発の号令が掛かってしまったので出発。

そういえば、こぐさんが魚肉ソーセージを頬張っていたのはこのコンビニだったかしらん。

「たかさん伝説」 崩壊する!

ここに来るまでずっと最後尾を守ってきた たかさんが初めて先頭を引いてくれた。

これまで神奈川支部では、

「たかさんが先頭を走るとペースが早くて大変だ!たかさんを先頭にしちゃいけない。」

などということが公然と言われてきた。ところが、今回のツアーで先頭に立った人は皆、一様に早かった(巡航25~27km/h)ので、たかさんの汚名?はここで晴らされたのだった。私の場合は3ACTIONの力を借りなければいけませんが…

目指す前方には山が立ちはだかっており、また登り?と ゾッとしたものだったが、国道1号線はありがたいことにそれを逸れるように続いていた。おまけに下り基調だった。

私はずっと考えていた。

「あのお饅頭はどうなっちゃうんだろ?まさか全部食べないよね。大きいもんね。」

それにしても天下の国道1号線、道が悪すぎる!舗装の状態があまりにも悪いので振動がダイレクトに身体に響いてくる。ぶつぶつと文句を呟いていると左に愛知県警察の建物がある。「あら?いつの間にやら尾張の国に入っていたのね。」なんとも淡泊なお国入りとなってしまった。

豊橋の市街が近づくとトラックなど大型車両の交通量が増え、車道を走るのは危険に感じられた。歩道が広めなのは良いが、相変わらず舗装状態が悪く、段差も非常に多い。がまんして歩道を走る。

*あ〜ん、私のお饅頭が〜

さて、お昼ごはんの時間だ。

本来なら、豊川稲荷のおいなりさん、あるいは名物?麦とろろを食べたかったところだが、ここは我慢我慢。するとまたしても無情にも雨が落ちてきた。そのおかげでコンビニ立ち食いごはんは免れた。恵みの雨か?!

デニーズで手早く食事をしつつ、次の行動を検討する。時間的に完全自走が難しくなっていた。浜名湖の強風で予定よりも時間が掛かってしまったようだ。

「豊橋から岡崎まで輪行しよう!」 頭の切り替えが早いのは神奈川支部の美点だと私は思いますです。最高っ!

そうそう、気になっいてたお饅頭のことを にちさんに聞いてみた。

(た)「お饅頭残ってるでしょ?」

にち「食べちゃったよ」

(た)「へ?全部?」

にち「うん、全部」

(た)「大きかったでしょ?」←しつこい

にち「おなか空いてたんだよね。あの時」

(た)「が〜ん…

*城よりだんご

岡崎まで電車に乗って時間を稼いだ分、岡崎公園でお花見する余裕ができた。

桜が見頃できれいだという情報を きささんから仕入れていたのでどうしても行ってみたかった。

岡崎駅で自転車を組み立てあげると まきさんが私に美味しそうなおだんご屋さんがあると教える。どれどれ?と着いていったそのお店にはそれはそれは美味しそうなおはぎ、おだんごが並んでいた。

即、購入決定。作りたてを販売しているようで、どれもこれも本当に美味しそうだ。

特に今目の前で火に炙っている味噌だんごと草団子の魅力的な事といったら。草だんごはその場で頬張ると草の香りが鼻をくすぐって、最高に美味しい!

さあ、味噌だんごが温かいうちに公園に急ごう。早く早く。

*感動のご対面に向けてGO

お団子をたっぷりと堪能し、桜とお城もしっかりと目に焼き付けた。ホントカ?

これでもう迷いはないはず。一路、合流ポイントの刈谷市今川のローソンを目指すのみ。ひたすら国道1号線を西進するだけだから道を失う心配もないはずと、ここでなにやら張り切りだした(あ)さんが先頭を引っ張る。その早いこと早いこと。元来、待ち合わせ時間に遅れることを極端に嫌うタイプの男である。額に青筋立ててびゅんびゅん飛ばしている。

私は、最後はじっくりとこの旅のあれこれを振り返りながらゆっくりと走る方が良いのでは?と思っていた。ご対面の瞬間はどんなかな?と想像したりしながら走っていた。やっぱり涙が出てしまったりするのかしら?

そのうちに、「もういつローソンが見えてきても不思議じゃないよ。」という連絡が無線で入ってきた。GPSの誤差を考えたらそういうことになるらしい。しかし、私がこの旅でお世話になったダイソーの100yen地図と現在地を確認するともう少し先のような気もした。いづれにせよ近くまで来ていることに間違いはない。

ひと呼吸取るために最後の休憩を入れることにした。

最後の名古屋入りの時ばかりはお天気も我々に見方をし、よく晴れていた。誰の顔もキラキラと輝いて見えた。脂ぎっていたとも言うが…

さて、誰がゴールのトップを飾るのか?誰の目からみても にちさんが一番の適任と思われたが、本人は照れてしまってどうしても承知しない。そこで、及ばずながら私の細腕(!)で先頭をひかせてもらえることになった。

「さぁ、行くでぇ!」

ゆっくりゆっくりと漕ぎだしたものの、気分が高まると共に足の回転もどんどん早くなってしまう。スピードメーターがどんどん大きな数字を示していった。

誰かが「あっ、あった。あった。ローソン!」と叫んだ。

目を凝らすと300mくらい先の方に確かに看板が見えていた。本当にローソンだ。更によく見るときささんとかぶりしぇさんらしき女性が見えた。

やったぁ、ゴール!最後の猛ダッシュをかけた。

「危ないからスピード出しすぎるな!」

誰かが叫んだような気がして一瞬後ろを振り向いたがもう訳が分からなかった。そのままきさ家のお二人とかぶりしぇさんが迎えるローソンへと滑り込んだ。

私の目には本物の涙が滲んでいた。

そして心から無事の完走を皆で讃え合った。

 

 

 

最後に

*バイオリズム

3日間も一緒に行動をし、睡眠時間、食事時間・量もほぼ同じになると 6人の身体のバイオリズムも同じになるみたいだった。おなかが空くタイミングが同じで笑えた。私が空腹を感じると神奈支部のみんなもおなかが空いているらしく、誰からともなく「腹減った〜」の声が。

*行程の2/3しか自走できなかったこと

今回の旅のスケジュールは私にとってはまさに「いっぱいいっぱい」。天候が悪かったこともあるけれど、これ以上走ることはできなかったと思う。たった1ヶ月の付け焼き刃のトレーニングではこれが精一杯だ。

私がいなければ「もっと早くもっと遠くまで」走っていけたに違いない。私のペースに合

わせてくれた皆には本当に感謝です。

特に、まきさんがペース作りをかって出てくれたのが助かった。巡航20km/hペースを維持してくれていた。もっと早かったら疲労感も倍増していたに違いない。

走りの経験がある(まきさんの)といのはこういった事を指すのだと思う。

*名古屋の為の練習

このツアーの為にいくつかのオフ会で走ってきたけれど、その全てが経験として身についていたように感じた。向かい風に対する恐怖も軽減されていたようだ。

今回は雨に降られる事になったが、雨天時走行も経験して次につながりそう。そして泊りがけのツーリングも初めて経験した。

さて、この経験は何に生かされていくのか?